■世界の終わり■
「……まぁ、良いんですけどね」
「何がだよ」
「このまま行けば、遠からず世界は破滅します」
Lは事も無げに言って、紅茶を飲み干した。
「どう言う意味だ?」
「言葉通りの意味ですよ。
あなたと私を繋いでいた手錠が外れた。
もう私には、世界を救う術はありません」
デスノートを再び手にして火口を殺して、後はLを殺すだけ、と思ってはいたが。
ここ数日のLはまるでそれを悟っているかのような諦観に似た穏やかな無気力を見せていた。
「どうしてそれが、世界の破滅とやらに繋がるんだ」
「キラの支配が始まれば、世界は終わります」
「だからこれから僕たちがそれを阻止するんだろ?」
だがLは、濁った白目をぎろりと動かして横目で僕を睨んだだけだった。
まあ、良い。
おまえはもうすぐ終わりだ。
こうやって話をするのも、これで最後だ。
全部おまえが悪いんだ。
僕の正義を、邪魔するから。
「おまえ、今日は何だかおかしいよ」
「……狂っているのはあなたです」
僕への返事というよりは、独り言のように呟いたLの、口角が何故か上がっていた。
「何がおかしい?」
「いえ」
そう答えて、けれど今度は本格的に笑い出す。
Lが声を出して笑っているのを聞いたのは、これが初めてな気がした。
「何だよ」
「……いえ、あなたにもいずれ、私の言っている意味が分かります。
その時になって、あなたがどんな顔をするのかと想像すると何だか」
そう言って、また俯いてくっくっ、と喉の奥で笑う。
「世界が終わる時?」
「そうです。残念ながら私はそれを見る事はないでしょうが、
こうなってみると待ち遠しいような気もしますね」
「……」
世界は、終わらない。
それどころか新世界が始まるんだ。
そしておまえの言う通り、おまえがそれを見る事はない。
あと数日の命なのだから。
「もう一度言います。世界の終わりは、すぐそこで待っています」
「ああ、そう」
投げ遣りな返事に、Lはワタリの焼いたパンに伸ばし掛けていた手をふと止めて
僕の目を真っ直ぐに覗き込んだ。
「血で赤く染まった月が昇る時。それで最後です。月くん」
「……何それ。予言?」
茶化しながら不覚にも、ぞくりと肌が粟立つ。
……赤く染まった月……。
Lの黒い瞳の奥に、少しづつ、しかし取り返しようがなく確実に崩れていく世界が
見えたような気がした。
--了--
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